味でつなぐ - 料理人探訪Vol.16 お好み焼き 好きやねん

包丁にこだわるお店は美味しい

食材にこだわる飲食店が増えた今、料理人が行き着くのが包丁へのこだわり。 包丁の切れ味にこだわるお店は例外なく美味しい。

「味でつなぐ 料理人探訪」は、グルメサイトのレーティングでは伝えきれない、本当に美味しい店を紹介するシリーズ。

包丁から見えてくる技術、哲学、そして食へのまなざし。 料理人の内面に踏み込み、本質を探る。

第16回目は、島之内にある「お好み焼き 好きやねん」。店主の内田 比佐子氏にお話を伺った。


シングルマザー
選んだお好み焼き屋の道

23歳でバツイチになってからは、二人の子供を抱えて昼も夜も働き詰めでした。長男が小学生になるタイミングで、「やっぱり夜は子供の傍にいないと」と思ったんですが何も手に職がない状態。

自分に何ができるか考えた時に浮かんだのが“お好み焼き”でした。子供の頃から味にうるさい父に鍛えられながら作ってきたこともあって、お好み焼き屋をやろうと思ったんです。

知り合いの紹介で修行を始めましたが最初は何も教えてもらえず、ひたすらキャベツを切る毎日でした。当時は厳しいと思っていましたが、やっぱりそれぐらいの覚悟がないとあかんと身をもって思い知りました。

オープンまで何度も試作を繰り返すなかで、最初はなかなか味が決まらず悩んでいましたね。

毎日のように悪夢ばっかり見ていましたよ。ソースの雨が降ってくる夢とか、天井がお好み焼きになって押し迫ってくる夢とかね。

そんな時、店を出すにあたって力を貸してくれた方に、「人の言うことばっかり聞かんと、自分が食べて美味しいと思ったらそれで進み。」と言ってもらったんです。

人の意見ばかりを聞いていると、何が正解か分からなくなる。やっていくなかで自分の味を見付けていこうと腹を括ることができました。

仕込みで決まる、理想のお好み焼き

うちのお好み焼きはふわっとした仕上がりで絶対に固くなりません。冷めてもコクが出て美味しいんですよ。

野菜はベジイノベーションさんという八百屋さんにすべてお願いしています。野菜へのこだわりが強いので毎回すごく良いものを入れてくれます。季節にもよりますが、泉州の松波キャベツを使っています。

キャベツは、内部の水分を一枚一枚丁寧に拭き取ります。面倒なんですけど、ふわっとしたお好み焼きを作るには欠かせない作業です。

そして最初にどれだけ細く千切りできるかが勝負。結局、理想の細さに切ろうと思ったら、よく切れる包丁でないとだめなんです。

生地は練ってすぐは粉っぽいので最低でも8時間は冷蔵庫で寝かせて、空気を含ませるようにして混ぜてふんわりさせます。

美味しさにこだわると、どうしても仕込みに時間がかかりますね。お店の規模を大きくしないかという話をいただいたこともありましたが、今のこだわりを維持できないのでお断りしました。

手間は掛かっても、自分が美味しいと思えるお好み焼きを食べてもらいたいですね。

家でもおいしく美味しく作るコツですか?

家だと大きいボウルで一気に生地を作ることが多いですよね。そうするとキャベツから水分が出て水っぽくなるので、面倒ですが1枚ずつキャベツと生地と卵を合わせて混ぜてください。美味しく出来ると思いますよ。

“ええ包丁を使わなあかんで”
-もらった助言

お好み焼き屋をするにあたって、色んなお店に食べに行って研究していました。それに付き合ってくれていた方に「包丁はええところのを使わなあかんで。」と言われて、教えてもらったのが堺一文字光秀さんでした。

最初に牛刀を一本購入したんですが、それからずっと愛用しています。

300㎜くらいの、大きめの包丁が好きですね。

ある程度重みのある包丁は自然に刃が落ちるので、自分はそれを軽く支えてるだけなので楽なんです。

研ぎに出していくと、段々刃が小さくなっていくので、そういうものは玉ねぎや人参のカットに回しています。

堺一文字光秀の包丁は、今では8本くらい持っていますが、その中でも相性っていうものがあると思いますよ。私のお気に入りはFV10 牛刀300㎜で、自然とこの包丁ばかり手に取ってしまいますね。

 

研ぎは必要な“投資”

キャベツを切る包丁は、大体1週間で取り替えています。なので毎月5本ほどまとめて一文字さんに研ぎに出しているんです。

特にキャベツは大量に千切りするので、切れ味が落ちたまま使い続けると手首が痛くなる。

昔は自分で研いでいた時期もありましたが、包丁を砥ぐのって本当に疲れますし、時間がかかる上に納得のいく切れ味にはならない。

やっぱり一文字さんに研ぎに出した包丁は仕上がりが全然違います。だから今では研ぎに出すことも必要な“投資”やと思っています。

潮時か、諦めかけた時に入った予約

4年前に右手首を骨折した時、実はもう辞めようかなと思っていました。包丁も握れないし、キャベツも切れない。「ここが潮時か」と本気で考えたんです。

お店も二か月間閉めてリハビリに通っているタイミングで、関東のお客様から11月17日の予約が入ったんです。

その日は亡くなった母の命日で、これってもう一回頑張れってことなのかもしれない、と思い直しました。

お客様には事情をお話して、「11月17日までには必ず戻ります」と伝えました。その日に間に合うことを目指して必死にリハビリに励み、またお店に立つことができました。

しばらくはまだ痛みもあって、泣きながらキャベツを切っていたんですが、今はようやく普通に使えるようになってきました。

38年間山あり谷あり、今は毎日が楽しい

38年間このお店をやってきて、ここまで辿り着くまでには本当に山あり谷あり、色々ありました。

お好み焼き屋で子供を育てていけるのか。従業員たちの給料を払っていけるのか。ずっと不安と隣り合わせだったんです。

それでもアルバイトの子たちはよく助けてくれるし、何といってもお客様に恵まれました。

今はようやく毎日が楽しいです。身体が続く限りはこれからも頑張ってやっていきたいですね。


お好み焼き 好きやねん

https://tabelog.com/osaka/A2701/A270201/27055414/

住所

大阪府大阪市中央区島之内2-12-15

ロイヤルコーポ鍛冶町 1F

営業時間

18:00~02:00(L.O01:45)

定休日

火・祝

※ワンドリンクワンオーダー

ドリンクフード一品ずつ以上

YouTubeでは「味でつなぐ - 料理人探訪Vol.16 お好み焼き 好きやねん」自慢のお好み焼きの調理風景もたっぷり収録しています!ぜひご視聴ください。

店主愛用の包丁はこちらのページからご覧ください。

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